長靴の甲を行く

アガヴィを出てポジターノの町を過ぎ暫く走ると、エメラルドの洞窟だ。エメラルドはイタリア語ではズメラルド、あまりきれいな色という語感ではないのだけれど。道ばたからエレベーターで海辺へ下りていく。船着き場には何人かの観光客が待っているが、次々とボートが来て7、8人ずつ乗り込み洞窟に入っていくのだ。洞窟の中はかなり広い空間で、何艘かのボートが一度に入ることが出来る。船頭は流暢に説明を講じ、オールで水をかき上げると波立つ海面がエメラルドに輝いた。歓声や溜息が上がる。結局ポイントはそこで、ひととおり洞窟の中を回っておしまい。洞窟の底にマリア像が置いてあってお賽銭が沢山落ちていたが、これは以前のテレビ番組のヤラセらしい。イタリアのテレビ番組は日本並みに面白いと思うが、ヤラセも日本並みなのだろう。

洞窟から復帰して変化に富む道を走ると、アマルフィだ。何となく気がせいていたのでこの町は通過するが、ここから山へ上っていったラヴェッロという町は訪れてみたいと思った。アマルフィから程なく、登り道が分岐しておりその細い道を上っていくとラヴェッロに着いた。広い駐車場に車を停め、ドゥオーモ前の広場に上る。広場の角にルフォロ荘の門があり、入場料を払って中に入る。ここにはかつてワーグナーも住んだことがあり、ローエングリンを構想したらしい。庭園からはアマルフィ海岸を見下ろす、大変な絶景が広がっている。この庭園に崖に張り出して特設ステージを作り、その一望する地中海を背景にコンサートやワーグナーの楽劇を上演する音楽祭が毎年開かれる。これは世界でも例のない空中のコンサートだ。好天の下、そのコンサートを空想しながら時を送り、ラヴェッロを後に下界へ下りた。少しずつ普通の半島の風景になって行き、サレルノの町が近づく。サレルノからは高速道路に復帰し、一気に南を目指した。

緑と地肌が半々の山がちの風景の中をバジリカータ州へ入り、高速を下りて再び海を目指す。ポリカストロ湾に出るとサプリの町、そこから海沿いに行くとマラテアに入り、アクアフレッダという場所のホテル VILLA DEL MARE に着いた。海辺のリゾートでツィンが20万リラちょっとだからお値打ち。部屋も木材を多用していて華美ではなくくつろげる。プライヴェート・ビーチもゆったりしていてビールを飲みながらうとうとする。夕食はとりたてて特徴のないイタめしだが、観光用の不味いものとは違う。こういうところで少なくとも1週間以上はのんびりするのが正しいバカンスなのだろうが、間違ったバカンスを追求する我々は明日はちょこっとだけ移動する。

翌日は、海沿いに60キロ程南下し、チェトラロという所にある GRAND HOTEL SAN MICHELE に投宿。農園のような広い敷地のホテルだ。建物はもとは邸宅だったようで、広く、天井の高い客室からはティレニア海を臨む。真夏だが、前面の窓を開ければ涼しげな海風が吹き込んで、部屋の中は快適だ。このホテルにもプライヴェート・ビーチがあるということで、海まで下ることにする。庭を出て道を渡るとエレベーターで一気に海岸まで出ることが出来た。夕食は広いテラスで海風に吹かれながら楽しむ。1泊2食というハーフ・ボード・スタイルで、前菜、メインともに2、3品から選んでいく。料理自体はそこそこに美味しいというレベルだったが、何より環境が良すぎる。2時間たっぷりの食事を追える頃には夕闇が迫り、部屋に戻る。