トスカナ・ウンブリア篇
南イタリア篇
ナポリ再び篇
3日目は朝から晴れ渡っていた。絶好の洞窟びよりだ。まずはチェックアウトをして荷物を今晩の宿、ヴィラ・クルップに移動してしまおう。何度も行き来したトラガラ通りを荷物を引っ張って行き、クィジサーナ・ホテルの角を曲がると下り坂だが、クルップ通りを外れてホテルまでの小道は階段混じりなので荷物を上げるのは結構骨が折れた。荷物を預かってもらい、再び中心部へ。フニコラーレでマリーナ・グランデへ下ると、青の洞窟探訪の船はすぐにわかった。小さな船に20人ほどが乗り込み、港を出て島の縁をぬって進む。
洞窟の前で、今度は数人ずつ小さなボートに乗り込む為にかなり長い間待たされるが、やっと順番が来てそばにいた人たちとボートに移る。乗ったまま、洞窟入場料を払う。船頭さんにもチップを渡さなければならない。ちいさな洞窟の入り口をボートがくぐる時は、乗っている人たちは体を横にしてボートの縁より上に頭が出ないようにしなければなならい。船頭は手で岩を押して船を沈めながら滑り込むように洞窟に入る。先ほどチップも弾んだせいか、気持ちよさそうに歌を歌いながらオールを漕ぎ洞窟の中を進む。振り返ると洞窟の入り口から入った光が海面を碧く光らせている。昨年のエメラルドの洞窟では、船頭がオールで水をかき上げると飛沫と波とが青く光ったが、ここでは波が立たなくても海面が蒼く冷たい光を放っている。洞窟の中はかなり広く、何艘ものボートがゆっくりと周り、そして入ってきた穴から外に出る。やがて我々も出る番になったが、ボートを少し沈めたときに勢いが余って海水をしこたまかぶってしまった。今度は来たときと逆で、再びエンジン付きの船に乗り、マリーナ・グランデを目指した。
再びフニコラーレでカプリの町に上り、散策の後ホテルへ向かった。昨日予約したときと同じように優しく上品そうな女主人が応対をしてくれた。宿泊者の雑記帳を見ると、日本人も何人か訪れていることが分かった。ホテルを取り上げた日本の女性雑誌の切り抜きもあった。それによると、このホテルはその昔、レーニンが滞在していたことがあるそうだ。これは驚きであった。ソ連を作った革命家がこんなところでのんびり、まあ思索したり執筆していたのであろうが、過ごしていたとは。レーニンが泊まっていた部屋は今でもそのまま残っているが客を泊めているかどうかは訊かなかった。
我々の部屋は2階の海に面した広いテラスがある角部屋で、このホテルでも特に良い場所だった。前日の飛び込み予約で値段も高くないのに、これ程の部屋を充ててくれたシニョーラに感謝。水色のタイルを敷いたテラスからは、眼下に広がる海の向こうにファラリョーニのふたつ岩を臨み、カプリでも素晴らしい眺め。何より部屋からその風景を独り占め出来るのが素晴らしい。そのまま夕方まで何もせずに過ごした。
ホテルにはレストランがないので、食事は外のレストランでとることになる。ガイド・ブックにも出ている BUCA DI BACCO というレストランに入った。バッカスの穴? あるいはバッカスの食堂? 味は期待したほどではなかった。油がかなり多めでもたついた味で、きりりとしたところが無い。やはり第一夜が凄すぎたのかも知れない。再び地のワインを飲み、レストランを出ると外はすっかり暗くなっていた。