紀行篇
写真篇
朝は少し涼しくなった。誰もいない食堂で初めての本格的アイリッシュ・ブレックファ-ストをとり、余りのんびりせずに出発する。今日はコークを越えてケリーの方まで足を伸ばしたい。昨日と同じ様な丘陵を走る国道をひたすら進む。コーク付近のバイパスで工事中の渋滞にあうが程なく町なかへ。
コークでは町中をぐるぐる回り、やっと立体駐革場を見つけて入る。昼時でもあるので、少し町歩きをしよう。平日ではあったが、ランチ・タイムのせいか町は人で溢れており随分と賑やかだ。本屋ではケルト文様のイラスト本を買う。もうB&Bはあてにならないと、ホテルガイドも購入。このガイドは建物の写真のみならず責任者の顔写真が付いているので、送ったときは親切そうな顔の方を選んでみよう。コークにもHMVがあったのでひやかしてみたが品揃えはさすがにダブリンには及ばず、特に何も買わなかった。ここにもディスク・パーキング・エリアなるものがあった。駐車している車をよく見ると、結局それは円盤状の紙(これを称してディスクなのだった)を近くの店で買って、それに時間をマーキングして車のサイドウィンドウに狭む、という路上駐革料金支払いシステムであることが判明した。パリのように違反摘発おばさん達がうろついているわけでも無さそうだったけれど、皆まじめに料金を払っているようだった。コークの町では結局昼食を取らずスーパーでヨーグルト・ドリンクとキットカットを買って車に戻り、滞在2時間ほどで町を後にすることになる。
ケリー周遊道路まではそれ程時間もかからず、いつのまにか海沿いの変化に富んだ道を走る。もう夕方だ。だがこのリング・オブ・ケリーの沿線にはこじんまりしたB&Bばかりが並び、昨日の忌まわしい思いがよみがえる。どのB&Bも景色の良いところに建ち、庭先には既に何台かの車が停まっていた。既に部屋は一杯の様子。とても一人旅では部屋を空けてくれそうにない。リングは早く一周してしまってトラリーで宿を見つけよう。そう覚悟を決めると余裕も出るが、美しいリング・オブ・ケリーも単なる通過路という感じになってしまった。 トラリーはコークほど大きくはないものの賑やかそうな町だった。しかしどこかすさんだようなところがあり余り泊まりたいという気にならない。ディングル半島に足を延ばす手もあるが、B&Bだらけだとおしまいだ。明日の行程を先取りしてリメリックに向かう国道を走って取りあえず隣町まで走ることにした。
ところがその隣町というのも殺風景であまり魅力のない町だった。あろうことか雨もばらつき始め、少しずつ夕闇が迫る。メインストリートの公衆電話から再び先ほどのトラリーのホテルに電話をかけるとこれまた満員のところが続く。やむを得ず丁度電話ボックスの向かいにあった恐らく町で一軒のホテルに入る。外からみるとビジネス・ホテルみたいな感じだったが中はかなり豪勢な雰囲気。丁度団体客が到着したところで活気もあった。部屋も空いていることがわかったが一人でも二人分として倍額取ろうとしているんじゃないかというくらい異常に高い。もっとも60ボンドすなわち1万円ぐらいのものだが、やはり泊まるほどの町ではないという気もしてパスすることにした。 値段を聞いて躊躇していたので貧乏旅行とでも思われたのか(60ポンドの値段を聞いて迷っていれば実際、貧乏旅行だが)、隣にB&Bがあるよと親切に教えてくれたが、もうB&Bはこりごりだ。 やはリトラリーに戻ってどこかホテルを見つけようとあてもなく来た道を戻ることにする。
夕闇の迫る国道をもと来た方に戻っていると、途中でドイツのガストハウス風の大きな宿屋が目に付いた。 BALLYGARRY HOUSE HOTEL、これはいけるかもしれないと車を乗り入れる。フロントに訊くと運良く空部屋ありとのこと。周辺には何もなく食事はここでとるしかないので町のパブめぐりは諦めるしかないがやむを得ない。朝食付き35ポンドとかなりお値打ち。ちなみにアイルランドではホテルでも朝食込み料金が一般的。つまりB&Bというのは民宿という意味の他に、宿泊料金のコンディションとしても使う表現である。さてバリギャリ・ホテルであるが部屋も山小屋風で雰囲気は悪くない。窓はあいにく道路側で、反対側だときれいな庭越しに田園風景が広がっていたが、賛沢を言っている場合ではない。利益率の低い一人客は部屋が与えられるだけでも幸せを噛みしめなくてはならないのだ。
古風な作りの落ちついたバーでハープ印ラガーを1パイント飲みレストランヘ。中では生演奏の音楽が聞こえ大騒ぎをしている様子。足を踏み入れるとレストランと思ったのはボール・ルームでちょうど結婚式の宴会が開かれているのだった。廊下の小さな扉の向こうに、明るいが落ちついた内装のレストランがあった。海のそばでもあるしやはりここは魚介料理を。ワインは白をカラフで頼む。ちょっと甘すぎて昔の日本の田舎ワインみたい。でも料理はおいしい。一応フランス料理風といった感じで、―生懸命作っているという誠実さが感じられる味だ。サービスも迅速かつ心がこもっている。北の国では8ポンドとワインが割高になるのはしょうがない。13ポンドの食事だけ考えればコスト・パフォーマンスは良好。 フラシスの田舎のオーヴェルジュといい勝負だ。2泊目は食事、宿とともに満足。