紀行篇
写真篇
早朝、ポルト・マイヨーのエア・フランス・バスターミナルまで歩いた。 丁度、高速A1が工事中で迂回による延着を心配したが、下りは車線規制だけで早朝と言うこともあリスムーズに流れ、結局、空港で随分待つことになってしまう。
エール・リンガスの機内食はエコノミークラスだと言うのにアイリッシュ・ブレックファーストを模したもので、発熟台付きのプレートにしっかり暖かいスクランブルエッグとベーコン、ソーセージ、 トマトが付いて賛沢。 滑り出し快調だ。
ダプリン空港は観光客でごった返していた。 早いところ車を借りよう。 いくつかのレンタカー会社のカウンターが並んでいた。 何となく目が合った、やたら早回のヨーロップ・カーの受付のお兄さんにつかまる。 とにかく一番安いグレードを所望。 あいにく力□―ラしかないが、一番安いトゥインゴ・クラスの料金で良いというのでそれに決めた。 フランスで航空券を手配するときレンタカーも手配しようとしたが、その旅行会社が使っているレンタカー会社では最廉価クラスは全部予約済みというので現地手配としたのだが、現地ではそのクラスでも299ポンド、換算するとフランスで上級クラスを手配するのと結局同じになってしまった。 やはリレンタカーの予約は旅行エージェントを通じた方が条件がよいのかも知れない。 しかも更に保険だなんだで500ポンド近くなる。
駐革場に行ってみると力ローラではなくサニ一だった。 まあどちらでもいい。 カウンターでは新車という話だったが、実際は傷が目立つ上、フロントのサニ一のロゴマークが盗まれているという状態。 返すときにトラブルにならないよう、念入りに確認して問題箇所を書類にマーキングしてもらう。 久しぶりの左側通行で駐革場内でもう縁石に乗り上げる。 公道に出て最初はおどおどしていたものの、ダブリン市内に近づく頃には大分慣れた。 1400CCのエンジンは軽く良く回る。 イギリス製サニーもがんばっている。 おまけにフィリップスのカーステレオまで付いている。RDS対応ではないものの、立派に電子同調チューナーだ。 途中で渋滞もあり回り道をしながら走っていると、いつの間にかコノリー駅近くにさしかかった。 ダブリンの中心街はもうすぐだ。
リフィ川沿いに町の中心部に向かう。 路上のパーキングスペースが空いていたが未だアイリッシュ・ボンドを持っていない。 先ずは両替をしなければ。 後払いの立体駐革場に車を入れてエレベーターで降りるとちょうどショッピングモールだった。 セイント・スティーブンス・グリーン公園の角で、ここから賑やかなグラフトン通りが始まっている。 年前中だと言うのに人で溢れかえっている。 アイルランド銀行向かいのキャッシュ・ディスペンサーでアイリッシュポンドを調達。 同じポンドでもIEPはSTGよりも若干だが高いのだ。
さて、まずはトリニティ・カレッジで「ケルズの書」を見なくてはいけない。 キャンパスに入るとこじんまりした中庭で皆のんびり休んでいる。 ところが図書館の入口は団体客で長蛇の列。 アメリカ人の団体のようだ。 入場制限をしているらしく、進んでは止まりの繰り返し。 やっと中に入って切待を買うととまた行列。 展示の小部屋にはショウ・ケースに「ケルズの書」と「ダロウの書」が並んで展示されていて、みなカーパの神殿で礼拝するムスリムのようにぐるぐるとケースの周囲を回り部屋を出る。 立ち止まってよく見ようとすると、係員が「はいはい、立ち止まらずに、歩きながら見て下さい。皆が見れるようにね。」とせっつく。 30分待って30秒見るという感じだ。 後ろ髪引かれて部屋を出て、ジョナサン・スウィフトの本なども展示されている立派な図書館を通り、もとに戻ってお土産コーナーに。 絵はがきを買って外に出る。 第一のイベント終了。
リフィ川を渡りオドンネル通りの書店イーソンヘ入る。 アイルランドで泊まるならやっぱりB&Bにしなければと、ガイドブックを買う。 それからグラフトン通りのHM∨に寄って伝統音楽コーナーをざっと見る。 集中的な買い物は最終日にするとして、レンタカーにはカセット・プレイヤーが付いていることだしBGM用にHMV編集のアイリッシュ・トラッドのコンピレーション・テープと新譜のCDを4枚ほど購入する。 駐車場のあるモールではメアリー・ブラックの新譜「サーカス」のポスターが貼られていた。 ところが肝心のCDは見あたらない。 売り切れたのか、未入荷なのか。 いずれ一週間のうちにはどこかで手に入るだろう。 ポスターの上には、 「明日、メアリー・ブラック来店」という紙が貼ってある。 明日まで留まりたいが、こうぃうイベントに従ってスケジュールを変えていると1週間ダブリンに釘付けということになりかねない。 途中で何に会えるか分からないし、ここは予定通り出発しよう。 もう3時近い。 明日以降の日程に余裕を持たせるためにも、今日はダブリンを離れ行けるところまで行く心づもりをする。 とりあえずコーク方面に南下することにした。
町を出ると走りやすいバイパスのような道になったが、いつの間にかゴールウェーへと向かう道を走っていたことが分かり、郊外の住宅地を迷いながら横切っていった。 ダブリンのふつうの人々が住む住宅地は、日本の新興住宅地とそう変わらない風景だった。 どこも同じように見える住宅街を適当に走って何とか正しい道に出た。 暫く走るとダプリン環状線、空港線とともにアイルランドで確―の高速道路区間となる。 とはいえ短いもので―瞬のうちに通過、後は普通の国道になり、丘陵地帯をのんびり走る。
5時を過ぎてやや大きな町に入った。 キルケニ一だ。 キルというのはゲール語のCILLで敦会のこと。 ケリー郡の中心もキラーニ-と言ってキルが付く。 キルケニ一はちょっと趣のあるいい町だった。 中央通りは町の人だけでなく観光客も多く行き交っている。 草を停めておこうとしたスーパー・マーケットの大きな駐車場にはディスクパーキング・エリアと書いてあった。 ディスクパーキング? パブでは「今晩、音楽有ります」という紙が貼られている。 今夜はこの町に泊まってパブで音楽でも聴こうと思う。 ところがあてにしていたB&Bはことごとく満員御礼だ。 最初に町外れのこぎれいなところを訪ねて断られたときは、部屋数だって4つくらいだから、まあ満員のところもあるだろうと余裕があった。 ところが2軒目、3軒目と断られ続けるといくら何でもおかしいと思い始めた。 話の感じから、どうやらオン・シーズンで実際に部屋が無いというだけでなく、割の合わない一人客であることが更に条件を悪くしていることが分かってきた。 こうなるとあせりが大きくなる。 確かに日本の旅館と同じように1名いくらの値段設定なので、次から次へと客が来るこの時期に多少の割増料金になるとはいえ一部屋埋まって一人分しか取れないというのは避けたいのだろう。 ましてや民宿なのである。 中には残念そうに町から離れた別のB&Bを紹介してくれた親切そうなおばさんもいたが、一人客とわかるとけんもほろろのおばさんもいた。 「なぁにが、素朴なふれ合いのB&Bだ、この守銭奴めが」とすさんだ気持ちになる。 泊まる場所が見つからないと言うだけで、何ともギスギスしてくる。 夏だから陽は高いもののもう6時を過ぎた。 こうなったらホテルに泊まろう。 少し高くなってもしょうがない。 こんな時のためにミシュラン赤本を持ってきている。
ミシュランで見つけたクラブハウス・ホテルに入った。 中2階のレセプションにおもむくとやつれた感じの女が電話を終えて応対してくれる。 「おひとりで?」と少しうとましそうな顔で台帳に目を走らせる。 なかば諦めかけると「朝食付き30ボンドでいいかしら」と訊かれる。 B&Bに比ベれば少し高いが、ホテルに泊まると思えば別に高くはない。 円換算すれば5000円程度のものだ。 渡りに船と即OKする。 裏の駐革場への行き方を言いた地図のコピーを見せて説明してくれる。 思ったほど不愛想でもないか。 ルームキーを受け取り路上駐革していた車に戻る。 女はカウンターから離れると、またタバコをふかした。 地図通りに裏道に回り駐革場へ車を入れた。 部屋には裏口からダイレクトに入れる。 少し古いがゆったりとした部屋だ。
シャワーを浴びてから外に出る。 ホテルのレストランは高そうだったのでどこかで夕食もとろう。 こぎれいなパブには日替わリタ食メニューがボードに手書きされている。 2、3のパブを覗いてメニューに「アイリッシュ・シチュー」と書かれた一軒に決めた。 ギネスを飲み、サラダとシチューを頼む。 クリームではないが白い色のシチューは塩味が殆ど無く、おやおやアイルランドめしも英国料理みたいなものかと思ったが、塩をかければ旨味は感じられる。 セロリが沢山入っているような独特なにおいがするが、これがうまくマトンのにおい消しになっているのだろう。 それ程たくさん食べたわけではないのに満腹になり、パブのライブの時間までホテルに戻ってゆっくりしていると、そのまま眠くなった。 10時過ぎにいったん目が醒めたが、もう外に出る気もなくなりそのまま再び眠りに落ちた。