食物の為の5つの膳想曲
ホテル、レストラン訪問記
旅のアルバム
オーヴェルニュ地方でも、クレルモン・フェランの東側のドール川沿いのリブラドワ地方。死の舞踏の壁画で有名なシェーズ・デューから東北の方向、サン・ロマンという村の中で、アンス川にかかるラフィニ橋のたもとにある田舎宿。アンス川はここらではまだ小川の流れだが、やがてロワール川に注ぎ、大西洋に抜ける。ラフィニ橋も長さ10メートル程の小さな橋だ。
このレストランは'94年のゴー・ミヨーに初登場13点、「ムニュは全てアンジェリックだ」と絶賛され、常にそのレベルを確保。
'94年にアンジェリックという形容詞の意味を味わいに出かけてみた。今でも160フランでメイン2皿のムニュが味わえる。アントルコートのボルドー風ソース(赤ワイン・ベース)等という普通のものが普通でない美味しさ。おいしいトンカツやエビフライという時の「美味しさ」に通じる。ワイン・リストも外れない。適当に選んだ、サンテミリオン・グラン・クリュのドゥミ(1/2ボトルで充実させるのは結構大変なはず)は6年間で飲んだワインのうちでも心に残る味だった。銘柄を忘れたのは残念。今はどうなっているかわからないが、12部屋位のホテルも付いていて、300フランぐらいで泊まれる。部屋で寝転がっていると、窓の外をドサドサ、カラカラと音がするので起き出してみると、牛追いの少年が何十頭という牛を連れ帰るところだった。
別に周りに何があるわけでもない、全く観光とは無縁の宿。でも、シェーズ・デューを訪れた後で、足を延ばしてこんなところでゆっくりするのもいい。
いつかは訪れたかった、明日を担う若手シェフ、ファジェガルティエ姉妹のレストラン。アヴェイロン県のロデズから西に20キロ走り、道をそれて川べりの小村へ。古城を見に来る人で小さな村はかなり人が多い。開業時はレストランだけだったが、人気も出て、小さな川の向かいの建物をホテルにした。レストランは集落の方にあるが、ホテルは古い石橋(これがレストランの名前になったのだ)を渡った向かい側に建っている。ホテルといっても7部屋。というと日本のペンションのようで400フラン前後という価格もの田舎の三ツ星クラスの値段だが、明るく清潔な新しい部屋はルレ・エ・シャトーなら1000フランはとってもおかしくないレベル。全てがひっそりと美しく、夢のようなホテル。窓からは川向かい、間近にレストランを含む中世の集落を臨む。
そしてレストランも期待を遙かに上回る絶品揃い。地元の新鮮な野菜、茸、をたっぷりと使い、全てが絶妙な味。田舎風であり、しかも洗練を失わない。ちょっと他に得難いレストランであり、個人的には三ツ星、つまりここを訪れるためにひとつの旅を計画する価値のあるところだ。ミシュランでは1ツ星が付いている。
更に、45フランの朝食は部屋まで運んでくれる。手作りジャムからすばらしく香りの良いパンまで、窓の外に流れる小川のせせらぎに耳を洗いながら、朝の光を浴びる窓際で食べられる。
ボルドー近郊に建つこの個性的なホテルレストランは日本の雑誌でもよく紹介される。ルレ・エ・シャトー。ボルドーのロカド(環状高速)から車で3分位のBouliacという町にある。町自体がなだらかな丘陵地帯の上にあり、ホテルからは右方のボルドーの町から真向かいのグラーブ地区までを見渡すことが出来る。モダン仕様の建造物だが、見かけは更にウルトラ・モダンである。奇を衒っているといったほうがいいくらい。ベッドが床上1メートルぐらいのところにあり、よじ登らなければならない。そのかわり、寝転がっても窓の外にボルドーの夜景を見ることができる。壁にはB&OのCDラジカセが備えられている。細長い部屋で平行面が無い壁、突然置かれた田舎風の机と、まあいろいろたくらみがある。部屋によっては、なかにバイクが置かれていたりする。ガラス張りのバス・ルーム。
ミシュランの星1ツを持つレストランもモダンな内装だが、こちらのほうは十分落ち着ける。こてこてのヌーベル・キュイジーヌで、独創的な料理。
ついにボルドーのワイン畑巡りをすることになった。ブルゴーニュと違い、ボルドーにはそれほど有名なホテル・レストランは少ない。ポーヤックのコルディヤン・バージュは一つ星のルレ・エ・シャトー。前々日に電話をすると、土曜日なのにすんなり予約できた。
夜明け前にパリを出たので途中仮眠もとって10時過ぎにはもうマルゴー村に入っていた。その後は、まるでスター・マップを片手にビバリーヒルズを歩き回る映画好きの心境。まず、シャトー・マルゴーの周りをぐるりと走る。マルゴーを後に、サン・ジュリアン、ポーヤック、サンテステフと走りながら、ワイン旅行ガイドの地図をたどってシャトー巡り。そんなところのワインはとても手が出るしろものでなくとも、「これがあの・・」という楽しさ。やっぱり、これはスター・マップを持った映画ミーハーと同じです。
コルディヤン・バージュはポーヤックの村の手前、国道沿いにある。ワイン畑に囲まれてシャトーと言っても2階建ての親しみやすい割烹旅館。中庭を囲むように宿泊棟があり、入り口の左奥からレストランとなっている。
ここのソムリエは日本人。ワイン・リストは当然のようにボルドーの銘醸ものをたっぷり揃えた広辞苑のようなもの。「ちょっと冒険してみようと思いますが」とのたまうと、「いや、冒険はしないほうがいいですよ」とのご忠告。で、お約束、コルディヤン・バージュをお願いする。
他の場所にもれず、ここでも何を食べたかメインはすっかり忘れたものの、鮮烈な印象を残したのがデザートである。苺のソーテルヌ・ゼリー寄せ。ANGELIQUEという形容詞を思い浮かべた。一口食べると、ジョスカン・デプレのアヴェ・マリアが頭上をたゆとうて行く。もう一口で、別の声部が加わり、食べ進むとひとつのポリフォニーの綾が形成され気分は天上人
。レストランを出たところに書斎風の居間があり、食後のカフェやディジェスティフをゆっくりとれるようになっている。
オロロン・サント・マリーは地平線にピレネーの山を遙かに見渡す美しいポーの町から国境に向けて国道を辿る。ここまでくると、山々も近づき、はっきりしてくる。小さな町で、アリソン・ホテルは町外れにあり少しわかりにくい。実際に、何度も迷った末、偶然ホテルの前にでくわした。町外れの高台なので、ピレネーの山々を見ながらプール・サイドで午後のビールを飲むのは最高。ホテルはモダンで設備も良いがビジネス・ホテル風でちょっと素っ気無い。レストランはあまり気取らず、ゆっくり楽しめる。ポーからの途中にジュランソンを通る。ジュランソンは甘口の白で有名だが、アペリティフには辛口のジュランソン・セックをグラスでもらった。そのあとはベアルヌの赤で鴨を食べる。ベアルヌ料理に限らず、コスト・パフォーマンスの良いレストラン。ここから、ピレネー越えをしてスペインまではあと少しである。
モンペリエのホテル。現在は Holiday Inn の経営となっている。市街地のホテルはほとんどが小さなホテルで、大きなホテルは新都心にあるソフィテルなど町から少し外れてしまう。このメトロポールは市街地のホテルの中では例外的に大きく80部屋ぐらいある。駅にも繁華街にも近く、オペラ劇場のある広場を越えて歩けば中心街だという便利な立地。おまけに、モンペリエの町を車で走るのは至難の業。一方通行の街路が蜘蛛の巣のように絡まり合い、城郭の中に乗り入れてどこかを目指してもすぐ別の側に出てしまっていたりする。メトロポールは駅の近くなので目印にも困らないし、専用の駐車場もある。車で着いても列車でも、とても便利。
大きな観光用に使えるホテルでこれほど居心地の良いホテルも珍しい。しかもどのような料金体系なのか不明だが、飛び込みなのにツインで350フランという正規料金の半額近い値段になった。大きいと言っても決して味気ないビジネス向けではなく、ベル・エポックの雰囲気が漂う立派な格式のあるホテルで、応対にも定評があるようだ。レストランも立派そうだったが、一晩だけの滞在なので町に繰り出した。
モンペリエは以前にも一度訪れたことがあり、その時は城壁近くの Hotel du Palais に投宿した。もう一度訪れたい街。まず人々の雰囲気が開放的だ。古い大学街特有の伝統がとけ込んだような若さとエネルギーがある。そういえば、イタリアのウンブリア地方のペルージャも古い大学があり、そんな感じがした。夏の午後はさすがに強烈な暑さだが5時を過ぎると太陽も少し傾き、地中海の近くらしい幾分ウェットな風が心地よく肌の熱を運び去っていく。それからの町歩きはとても楽しく快い。まるで風呂上がりの散歩のようだ。何しろ日没まではまだたっぷり4時間以上はある。広場のテラスでビールを飲んではカフェバーをはしごするのが最高の食前酒がわり。2回訪れて、2回とも小さな広場にテーブルを並べたピツェリアで夕食を取った。ちゃんとしたレストランも多くあるのだが、ここでは細かいことにこだわる気にならなくなる。街を味わえる街。