食物の為の5つの膳想曲
ホテル、レストラン訪問記
旅のアルバム
トゥールには、有名なレストランがいくつか。そして、ロワールのワインめぐりの中心地。シャトー・ダルティニーのあるモンバゾンは、トゥールからN10を南下した隣町になる。シャトーはモンバゾンから県道をアゼ・ル・リドー(これもロワール地方の城巡りに欠かせない)方面に入り、数キロのところにある。当日に予約の電話をすると、レストランは空いているがホテルは「パビリオン・ド・シャス」しかないとのこと。泊まれれば文句はないのでそのまま予約した。道路沿いの門を入ると、ずっと登り道が続き、ぐるりとカーブして丘の上に出ると、均整の取れたシャトーが姿を現した。レセプションで予約の確認をすると、パビリオン・ド・シャス(狩の館)とは、先ほどの門の脇にある小さな建物であることがわかった。お城に泊まろうと思っていればがっかりするところだが、まあおいしいものが食べられれば良いので、ふたり700フランぐらいで泊まれる狩の館は願ったりである。外見はお城とは大違いたが、中は田舎風に美しく纏められていて、お城の部屋より落ち着けるかも知れない。設備もルレ・エ・シャトーとしてきちんと整備している。おいしいものを食べるのが目的の時は、この「離れ」が狙い目。
日が傾き掛けた頃レストランに向かう。700メートルくらいだが登り道なので車で出る。夕暮れの中、灯火がともり始めたシャトーに向かって大きな前庭を渡るのは最高のアペリティフと言える。ゴー・ミヨー17点をキープするレストランは、雰囲気も申し分なし。ワインリストがすごい。場所が場所だけに、ロワールものがたっぷりある。ロワールというと若飲みの軽いものという相場だが、ここには今世紀前半のシノン等がずらりと揃っている。そのようなものでも、価格は1000フランぐらい。我々はシノンの10年ぐらいのものを選んだ。メインの鴨にも合う、落ち着いた華やぎを持った熟成のシノン。2、3年で飲むのが普通だが中には長くおけるものもある。
シノンの街を出てアンジェ方面に向かうと、程なくしてフォントヴローに着く。ここには12世紀からの歴史を持つ修道院がある。この修道院は史跡としてよくレストアされていて、音楽祭も開かれ、多くの古楽アルバムの録音場所にもなっている。修道院の敷地の一角にある建物を改装してホテルとしており、レストランも付いている。このレストランの環境は修道院ならでは。何と、回廊(クロワートル)にテーブルを並べているのだ。そのままでは冬は寒いので、普通は柱だけがある中庭との境に全て大ガラスをはめこみ、サンルームのようにしてしまったのだ。神をも畏れぬ大改造。アペリティフにはカクテル「修道院」なんていうのまである。ムニュは観光客用に150フラン以下から始まるのでランチにも良い。ソーミュールの赤を飲みながら、静かな「もと」修道院で贅沢なフランスめしを食べるという世俗的罰当たり。ソーミュールというと普通は白が多いが、この時は赤、それも少し奮発。と言ってももともとが高くないワインだから、ドゥミで80フラン。地ワインはちょっと値の張るのを試すのも面白い。他の地方のレストランではなかなか飲めない上質のロワールが飲める。若飲みの軽い赤という一般的なソーミュールの印象と異なり、重くはないが奥行きのある良いワインだった。料理自体は可もなく不可もなしだが、名所旧跡の中のレストランであることを考えると、「観光用」のレベルではなく、あくまでも食事そのものを楽しめるレベルだ。
訪れたときは週末の一泊旅行でアンジェに投宿したので、ここのホテルには泊まらなかった。二人で一泊500フランぐらいだからお値打ち。
フォントヴローには、La Licorneという18世紀の屋敷を改装したレストランが有名で、評価も高い。丁度訪れたときは昼も遅く満員で入れず、やむを得ずこちらの修道院レストランにしたが、かえって思い出に残った。
レストランの正式名称は、Le Cloître で、ホテルは l'Hôtel Abbaye Royale de Fontevraud というらしい。
ベリー公のまち、ブルジュ。パリからはクレルモン・フェランの方に南下して250キロ。ここには1つ星のレストラン、L'Abbaye Saint Ambroix がある。立派なホテルもついている。しかし、ゴーミヨーは、もう一つの若いレストラン、Philippe Larmatにより高いポイントを与えている。こちらの方は、レストランだけ。ホテルに泊まるなら、市場の近くの小さなホテル Christina かホテル・チェーンの IBIS などが安くてお薦めできる。大聖堂など、町の中心部にも近い。レストランも歩いて15分弱の距離になる。
ところが、このレストラン、全く印象に残っていない。いったい、どうしたことか。何を食べたか、どんな味だったか、すっかり忘れてしまっているのだ。何一つ、不満な事は無かったはずだ。ひとつでもあれば、何か覚えているはず。よい事も悪い事も、全く記憶から抜け去っている。おまけに、このレストランの名前もすっかり忘れていて、町の風景の記憶と、地図を頼りに思い出したものだ。
というわけで、隠れ里のようなレストランであった。
最近、ゴーミヨーにも記載が無くなりどうしたことかと思っていたが、Googleに残された一文を発見。それによると、80年にシェフのPhilippe Larmat氏はブルジュに乗り込み、開いたレストランは成功していたが、モスクワで謎の死をとげたとのこと。2004年10月の記事らしいので、その頃の話のようだ。
ボーヌから山道に入る。どちらかというと畑と丘陵地帯というイメージのあるブルゴーニュ地方だが、このあたりは丘と言うより少し山がちの風景になる。小さな川沿いのブイランドという村の入り口にあるホテル・レストランが、この「古い水車小屋」。ホテルは別棟になっていて、内装は完全にモダン。広い部屋にキングサイズのベッド。明るいバス・ルームには扉が無い。お湯の出が悪いのはご愛敬。小さな集落のはずれなので静かであり、山間といってもブルゴーニュの山は丘を高くしたようなものだから、閉塞感も無い。
レストランは緑の庭に面して一面に大きな窓をとり、客層も高級。伊勢エビ・コースとトリュフ・コースというバブルっぽいコース設定も、味は確か。デザートのトリュフ入りアイスクリームまで全てトリュフづくしのムニュ・デギュスタシオン。ワインは当然恐ろしい種類のブルゴーニュがピンからキリまでそろっており、素人には選定不可能。もちろんシェフに頼るのが正道だが、逆にこういうところでは、大穴狙いも面白い。すなわち、その場所と全く関係ない地方で安酒専門と思われている地域の、奇妙に割高なものを選ぶ。今回選んだのはラングドックの白、AOCではなくヴァン・ド・ペイ。これが大当たり。ほとんど黄金色に近い強い白で、ソーテルヌの甘さを取って辛口にしたような、イタリアのピノ・グリーリョを濃縮したような、芳醇、辛口。どんな料理も無理矢理引き立ててしまうような、専横とも言えるテイストである。高級レストランでは、聞いたこともない地酒を飲むべし?
訪れた年にはゴー・ミヨ評価で17点のトック3ツだったのに、次の年には1点落として厳しいコメントと共に帽子を減らされてしまった。その後、また復活し安定した評価を得ているようだ。
朝食はもりだくさんで部屋食がおすすめ。春から夏にかけては、陽光溢れるテラスで、のんびりとおいしいパンにかじりつくのは最高の贅沢だ。
1996.8.
それぞれのワインの産地に素晴らしいレストランが数多くあるわけではない。でも、少なくともそれぞれの町に1軒ずつはあるようだ。シャブリの場合、それは Hostellerie des Clos である。この町で唯一のシリアスなフランス料理レストランかも知れない。
オーセールからシャブリにアクセスする場合、町を通って中心街を外れるところにある。先に駐車場に車を停めて町をぶらつくのも良い。フロントでお薦めの店を教えてもらえる。事前に本に当たっておく方がいいかもしれないけれど。
リーズナブルな価格のホテルがついている。華美な感じは全くなく、感じの良いカントリー・ホテルという風情。シャブリが初めてなら、シャワーを浴びた後、車でワイン畑を見に行くのもいい。ブルゴーニュのワイン畑はどこも絵になる風景だ。グラン・クリュの畑はそれぞれに名前が付いているので、ひとつひとつ見に行くのも一興。
ミシェル・ヴィニョー氏の料理は、本当に何度も食べたくなるもので、1年の間に2度訪ねることになった。しかも、ムニュをとればかならずシャブリに合うようになっているのが良い。クリーム系のソースが多くなってしまうが、重い味付けではない。何も考えずにシャブリのなかからソムリエにアドバイスしてもらおう。おいしいシャブリを飲み、合う料理を食べたければ真っ先にこのレストランに行きたい。サービスも神経質ではなく、しかもきめ細やかで、リラックスして食事が楽しめる。ちょっと天井が低いのが気になるが、中庭に向けてサンルームのようにガラスを張り出させているので、圧迫感は少ない。薄いピンク色の布類も明るい雰囲気だ。
ブルゴーニュ公国の宮廷があったディジョンの中心街から1キロほどの場所にある大きな広場兼ラウンドアバウトに面して建っているホテル・レストラン。モダンな装いのブルゴーニュ料理を楽しめる。ア・ラ・カルトでも500フラン以下、ムニュはもっとリーズナブルな値段。ヴォーヌ・ロマネやシャンベルタンでたらふく試飲をしてきたので、夕食の頃にはひどい頭痛に悩まされ、肝心の料理が全く思い出せない。非常に残念な思いのある場所。ホテルは田舎の宿屋風でもあるが、小綺麗にまとまっていて、一流レストランのホテルとは思えないマル得プライス。ディジョン観光の時に利用するのもいい。レストランは日曜と月曜昼はお休み。
Jean-Paul Thibert氏はレストランはやっていないようです。この場所は、現在、Stéphane Derbord というレストランになっていますが関係は無いらしいです。
ブルゴーニュの代表的レストランと言えば、ソーリューのコード・ドールとシャニーのラムロワーズ!! どちらも国道6号線沿いの町。その、ソーリューとシャニーの中間の Arnay le Duc にあるのが、Chez Camille というレストラン。カミーユという名前が何処から来たのかわからない(シェフの名前はポワンソさん)。国道の角にある古い家を改装しており、植物を多くあしらった温室のような内装。初めて、地方でフランス料理を食べたのがこのお店で、とても思い出深い。あまりにも時がたって、もう何を食べたかまるっきり覚えていないけれど。食べ終わったら、マダムが「日本から来たのか」と尋ねるのでうなずくと、「日本から修行に来ている若者がいるから話してみないか」と言って厨房に入れてくれた。その若者は、フランス人の料理人達の間で仲良くやっていた。数ヶ月前まで別のレストランで修行をし、紹介してもらってここに来たんだと言った。そのように体当たりで格闘して、体とこころ全体でフランスの食べ物を、いやフランスの目で見た食べる快楽を自分に刻み込んで帰っていくのだなと思った。
私が訪れた後、しばらくゴーミヨーの評価がさんざんな時期が続いたが、最近復活しつつあるようだ。料理の価格はそれほど安くはない。宿泊には、田舎風のちょっと豪勢な内装のホテルが付いているほか、シンプルな内装のアネックスの宿泊棟もあって、こちらはとても安い。
Chez Camille には、パリ近郊に Le Jardin de Camille という姉妹店があり、同じようなブルゴーニュ料理を出す。こちらの方は、遠くパリを眺める丘の上にあり、夜の景観は素晴らしい。