世界総ルンバ化計画

世界総ルンバ化計画

セビジャーナというのはアンダルシアで歌い踊られるフラメンコ風の踊りだ。特に、聖女ロシオのお祭りではアンダルシア地方を中心にスペイン各地からの巡礼団が歌え踊れのどんちゃん騒ぎを繰り広げるのに無くてはならぬ音楽である。スペイン版「おかげ参りとええじゃないか」という感じのこのお祭りについてのウェブ・サイトがあるので下の方にリンクした。この辺、日本の祭りに近い感じであり、元来「宗教的」行事であるはずが、聖と俗の交わるところに生まれる祝祭空間と言った宗教の本質的なダイナミクスを見せる催しとなっている。

CD屋に行くと、フラメンコの棚の近くに、セビジャーナスとカテゴライズされた棚があることに気づく。この場合は、セビジャーナを含むアンダルシア・ローカルの音楽を指しているようで、ルンバ・フラメンカのディスクも入っている。だいたいセビジャーナとルンバが両方入っているディスクの方も多い。CD店の棚ではフラメンコはフラメンコとしてカテゴライズされているが、ルンバ・フラメンカはセビジャーナというカテゴリーになっている。置いてある場所が違うのである。もちろん、ルンバは2拍子系、セビジャーナは3拍子系で全く違うスタイル。セビジャーナの方が古風な感じで、ルンバの方がノリが良くいま風の曲を作りやすそうで展開力はルンバの方がある。どちらもフラメンコを彷彿とさせるものの、セビジャーナはセビージャ民謡といった方がいいだろうし、ルンバはフラメンコ風味のポップ・ミュージックに近い。その上、ジャンル的にも独立して扱われており、その受容、楽しみ方もフラメンコとは異なっている。真っ昼間っから酒を飲みつつ脳天気に聴くのにはセビジャーナやルンバこそがぴったりであり、フラメンコは深刻すぎるかも知れない。

ディスクはセビジャーナやルンバのスタイルによる純粋にプロフェッショナルのグループの演奏するものと、いわゆる Coro Rociero de la Hermandad de ~といった信徒団の合唱隊のものとに分かれる。前者は、メンバーも少なく、洗練され(といってもアンダルシア色はぷんぷんしているが)、色々な点で聴かせる演奏。ここから延長すれば、ジプシー・キングスのようになっても不思議ではない。後者の方は、まず人数が多い。下のジャケット写真を見ていただければわかるだろう。そして、全員が「ユニゾン」で歌うのである。声を張り上げて。宴会でふつうの人たちが声を張り上げてみんなで歌う(なんてことは日本ではもう無いか)という感じである。ハモったりする小賢しいことにエネルギーを費やすより、ただ聖女を讃えるつもりで楽しむことに注いだ方が良いということだろう。

アンダルシアを走っているとき、カーラジオから流れてくるセビジャーナが頭にこびりつき、CDショップに駆け込んで店員の前で歌ってCDを探してもらった。同じ曲は見つからなかったが、同じジャンルと言うことでいくつかを薦めてもらったのが、のめり込むきっかけ。ここでは、私の持っているCDを紹介しよう。

Eres luz - Niña Pastori

(BMG Spain 74321 58714 2)
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この人は全国区のポップ・フラメンコ歌手。ルンバは4曲だけで、他はブレリアやアレグリア、ファンダンゴ、タンギージョと色々なスタイルの曲。前のアルバムでは如何にも野性味溢れたアンダルシア女という感じだったけれど、98年の本作は美しく磨かれた姿に。相当のダミ声だけれど、どこか伸びやかなところがあり聴きやすい。ポップと言っても、バックはギターラとパルマだけの伝統的なアコースティックなもの。

Entre dos puertos - Niña Pastori

(BMG Spain 74321 33800 2)
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95年のアルバム。声も若く、一本調子なところがある

Cañailla - Niña Pastori

(BMG Spain 74321 75540 2)
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2000年の始め頃に出された最新作。アレハンドロ・サンスがプロデュースに参加し、全体としては更にポップ色が強まった。しかし最初の曲の Los hijos del alba(夜明けの子供たち)から本格的なブレリアで一気にテンションを高めてくれる。そして2曲目のアレハンドロのバラード Cai に移る。8曲目、ルンバの Yo vivo navegando はブラス・セクションも入り、リズムにもトロピカル・フレーバーの溢れるルンバ・フラメンカになっている。最後のアレグリアSobre la arena も陽だまりのように明るく穏やかな歌。全体として、良い加減に力の抜けた、ポップ・フラメンコとしても異色の仕上がりと言えるかも知れない。素晴らしい。ジャケットの写真も素敵です。95年の上のアルバムにも何枚か写真が入っていて、田舎の港町のワケもカコもある姐ちゃんという感じだったのが、一気に洗練されて穏やかな笑みをたたえていたりする・・・

Más -Alejandro Sanz

(WEA 3984 25348 2)
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これは、フラメンコでもルンバでもありません。普通のスパニッシュ・ポップです。しかしこのアルバムには、私がそのルンバ・バージョンを聴いてトリコになった Corazón partió の原曲が収められています。97年発売のこのアルバムに収められた同曲は大ヒット、そのためにロシオの巡礼団までがルンバにして歌ったのでしょう。そして、98年の1月にスペインを訪れたときにそのようなCDの一つに出会ったというわけです。 その後のアレハンドロ・サンスの活躍ぶりはご存知の通り。今や、フロリダに居を構え、世界中のスペイン語圏で彼の歌は大ヒットしています。