Méditerranée 2
コルシカ島では、独特な合唱音楽が伝えられている。 地声で豊富な倍音を響かせるコーラスは、ブルガリアの合唱のような響きも持つが、独特のしめりけのあるメロディや陰影は地中海のものだ。 そして、厚いハーモニーが面展開して空間に巨大な音のイコンを作り上げるようなビザンチン的な雰囲気もある。
コルシカ島では、独特な合唱音楽が伝えられている。 地声で豊富な倍音を響かせるコーラスは、ブルガリアの合唱のような響きも持つが、独特のしめりけのあるメロディや陰影は地中海のものだ。 そして、厚いハーモニーが面展開して空間に巨大な音のイコンを作り上げるようなビザンチン的な雰囲気もある。
91年の本作は、エクトル・ザズーのプロデュースで作られたようで、タイトルにも avec Hector Zazou と入っている。 つまり、コルシカの合唱音楽をベースに現代的な音世界を作り上げようとしている。 どのトラックもザズー自身の作り出す電子音響がバックに流れ、楽器を持ったゲストも、マヌ・ディバンゴのサックスから、坂本龍一のピアノまで多彩。 コルシカの音楽を初めて聴くひとにはお薦め。
この中で GIRAMONDU という曲を歌っている Patrizia Poli を中心に Trio Soledonna が生まれ、Les Nouvelles Polyphonies Corses プロジェクトが続いている。
996年の作品。 一見、ホテルの一室か何かと思ってしまったが教会の中で左側に十字架が架けられている。 そしてタイトルも示すように宗教的な歌を集めたもの。 キリエ、グロリアからアニュス・デイまでのミサ通常文によるもの、レクィエムやディエス・イレ、スターバト・マーテルまで歌っている。 器楽のほうは、今度はJohn Cale (The Velvet Underground のメンバーだった) がアレンジし、ミキシングも行っている。 ア・カペラのトラックもあるが、多くは「ニューウェーブ・ワールドミュージック」的な味付け。 ディープ・フォレストみたいな部分もあるが試みとしては悪くない。 Dies Irae では Patty Smith が参加している。 ただ、聴き終わって歌だけでアルバムを作って欲しい気も否定できない。
1998年のアルバム。 今度は、Phil Delire がプロデュースし、打って変わって Unplugged なバックになっている。 地中海演歌という感じで、光と影が潮風の中ににじんでくるようなウェットさが良い。 ア・カペラの曲の倍音たっぷりのコーラスもふくよかさが感じられるし、アコーディオンの伴奏による新しい雰囲気の曲ものびのびとしている。 彼女たちの新境地を拓いた名作。 99年度のSACEMのグラン・プリ受賞作。
2000年に発売されたベスト盤。
2001年の作品。 isulanima というのは造語なのだろうか。 「島の魂」ということになる。 コルシカのポリフォニー風の響きが薄れ、汎地中海ポップのようになってきた。 面白いのは、E SI という曲で、The Georgian Six というグルジアのコーラス・グループとの競演していること。 グルジアの合唱というと、これまた地声ハーモニーを聞かせる独特のものかと思ったら、アルバムの中では一番モダンな雰囲気の曲だった。 全体には、コーラスも角が取れた今風の「癒し系」ワールド・ミュージックっぽくなってしまい、有機栽培原料使用ファーストフードという感じがするのは残念なことだ。
90年にバスティアで録音。 ダヴィッド・ルフのプロデュースによるということで、こちらもザズーとは別の意味で現代に蘇るコルシカの歌。 ルフによるサックスが絡む第一曲から、ECMタッチの音作り。 何だか動きのないスティーブ・ライヒを聴いているみたいで面白い。 全ての歌は独唱で、コルシカ独特の合唱を聴くことは出来ないが、その節回しを十分味わうことが出来る。
むしろこういう音楽を最初に聴く方が衝撃が強くていいかも知れない。 ブルガリアの合唱がバルカンの大地を震わせる波動だとしたら、このコルシカの合唱は地中海の海原を震わせるようだ。 男声のコーラスで宗教的な歌が多く、レクイエムやディエス・イレなどラテン語で歌われているものもあるが、多くはコルシカ語。 最後の歌、「おお、波よ、お前の静けさは一振りのナイフのような白い墓標よりも深い。 おお、波よ、お前が歌うとき、銃声のように哀歌が花開く。」 ハード・ボイルドでしょう?
こちらは5人の女声による合唱。 現代の曲も歌っており、ちょうどクーテフのブルガリア合唱団のよう。 宗教的な歌から、愛の歌、弔いの歌など。 どこか東方的な響き。
1978年創設のグループ、A FILETTA の新しいアルバム。 男声による純粋なアカペラで、電子楽器によるバックも無い。 が、やはりメジャー・レーベルのプロダクションらしく、豊かでふくよか響きといい、地声と言いながら刺激の無いソフトな声といい、何だかコルシカのゴスペラーズでも聴いているみたい。 洗練されすぎているのかも知れない。 雰囲気が盛り上がれば盛り上がるほど、どこか作為的な手触りの良さを感じてしまう。 ジャケット写真が気味悪い。 基本的に島モノ、トロピカルものはデザインを外すというのは下のジャケットを見てもわかる。
コルシカの本当の合唱が世に広まっていない頃、アンリ・トマジの「12のコルシカ島の歌」の入ったレコードがテイチクから出され、クラシック音楽好きの間でもちょっと話題になった。 その時の録音は現在入手が困難だが、同じ演奏者による92年の録音がある。 これもソンパクトなるマイナー・レーベルで、これ以外のアルバムは見たことがない。 コルシカ生まれのトマジ(1901-1971)の遺作となったのが、この「12のコルシカ島の歌」。 完全にクラシック音楽のスタイルになっていてまるで蒸留酒のようだが、その深層にコルシカの心を感じることができる。 その他はプロヴァンスに因んだ合唱曲。