FLIE UNDER; Roots Music

FLIE UNDER; CELTIC 1 - お気に入りの10枚

ちょっと、昔話です。

ラルフ・ネルソンという監督の作品、"Flight of the Doves"という映画をテレビの深夜映画で見たのは、高校生の頃だった。 主人公の孤児の兄妹が愛情のない養育者を逃れてリヴァプールから祖母のいるゴールウェーに旅をするという話だ。 画面には美しい緑の草原、輝き蛇行する河、崩れた古城や修道院、突然の断崖と海原が次から次へと映し出された。 その中でシャノン川を見下ろして、行商の鋳掛け屋の娘が二人に民謡を聴かせるシーンがあった。 彼女が「ティル・ナ・ノグ(常世の国)」というのだと言って歌った歌が、映画の中のアイルランドの風景とともに心に残っていた。

カウンター・テナー歌手のアルフレッド・デラーのイギリス民謡集のレコードや、ヴォーン・ウィリアムズのイギリス民謡による曲などから、イギリスやアイルランドのフォーク・ソングの周辺で、何か心に響くものを感じていたのだった。

それから何年か経ち、ミュージック・マガジンだったかの裏表紙広告でアイルランドのグループのレコードの発売が宣伝されていた。 それがクラナドの「マジカル・リング」だった。 石丸電気でそのレコードを買って聴いたとたん、これこそ求めていた音楽だと思った。 それから、私のケルト音楽への傾倒が始まった。 まず、高田馬場にあったOPUS1という小さな輸入レコード店を訪れ、クラナドのデビューアルバムから少しずつ買っていき、TV番組のサウンド・トラックである"The Celts"でエンヤを知った(そのCDは、BBCから出ていた)。 タンボリンという輸入レコード通販店を知り、カタログを送ってもらうようになり、毎月何枚かのレコードを首を長くして待った。 そのようにしてリラティヴィティやメアリー・ブラック、ボシー・バンド、デ・ダナン、次から次へと広がるアイリッシュ音楽の世界の中に彷徨い込んでいくことになった。 現在は九州に移転したタンボリンだが、当時は高尾にあって、月1回の自宅開放直販の日には出かけていって店長の船津さんにいろいろ教えてもらいながら、気に入ったアルバムを集めた。 ヨーロッパの様々な音楽に目を開くことが出来たのもタンボリンのおかげである。 出張で初めてイギリスに行ったときは、仕事を終えて夜の10時にホテルを出てレコード屋を探し出し、出たばかりのクラナドのアルバムを買ったものだ。 やがてCDが席巻しイギリスでもアメリカでもオフの時はタワー・レコードを訪れ、今と違ってなかなか日本で手に入れにくかったケルト音楽のディスクを探した。

それから集めた結構な量のCDからとりあえず10枚、独断と偶然で選びました。何とか選手権みたいなのは、別に意味は無いのですが遊びみたいなものとご容赦のほどお願いします。

Ballroom - De Dannan

(Berl)
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電気楽器を使わず、ジグやリールというダンス曲からエア(歌)まで演奏するグループ。 アイルランド音楽のフレームの中で、どっしりと地に足をつけた音楽を奏でる。 ソロ歌手は固定されておらず、Maura O'Connell、Mary Black、Dolores Keane、Eleanor Shanley、Tommy Flemmingといったソロ歌手を毎回フィーチャーしている。 誰とのどのアルバムを1枚選ぶかは悩ましいところだが、心を揺さぶるドローレス・ケーンの歌が何ものにも代え難い、87年のこのアルバムに。

Magical Ring - Clannad

(Berl)
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アイルランド音楽の一般マーケットへの普及にクラナドが果たした役割は大きい。 アイルランドのレーベルから出していた頃は、歌をメインにしたアイリッシュ・フォーク的な音楽を演奏するグループだった。 エンヤが参加した"Fuaim"というアルバムで音楽のスタイルが拡大し、次に出したRCAからのメジャー・デビューとなった本作で一気にイギリスから欧米全体、そして日本までリスナーを拡大した。 全てのトラックに珠玉のメロディが散りばめられている。 クラナドはその後、ポップ路線に大きくシフトして何枚かアルバムを出し、最近はまたトラディショナルな歌にも回帰している。 一貫してリード・ヴォーカルのモイア・ブレナンのアルトの声はシルクと言うよりコットン・タッチでおだやかなゲール語の歌を聴いていると心が洗われる。 ベスト盤ではなく、本作を選んだのは、このグループの出発点であり転回点であり、結成以来現在までの全ての要素が最も濃厚に詰め込まれていると考えるから。

Coolfin - Donal Lunny

(Berl)
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ケルト音楽界で最もアクティブな音楽家、ドーナル・ラニー。 ブズーキ奏者でもあるが、現在はプロデューサーとしての活躍が圧倒的。 ケルト音楽の広がりに思いを新たにするこの1枚、彼自身の曲と伝承曲が半々だが、演奏も伝統楽器と電気楽器をうまく溶け合わせておりポップでもトラッドでもない独特のスタイル。 ケルト音楽の最良の「今」を聴くことが出来る。 以下2枚と併せてドーナル・ラニーが多くなってしまったが、それらからは、単に伝統の枠の中にとどまってそれを継承するだけではない、ケルト音楽の最良のエレメントを感じることが出来ると思う。

Sult; Spirit of the music

(Berl)
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新たに生まれたゲール語専門テレビ局の番組から生まれたアルバムで、これもドーナルがプロデュースしている。 ヴァン・モリソン、モイア・ブレナン、シャロン・シャノン、マット・モロイなど18人の錚々たるゲストがそれぞれ、17のトラックで名唱、名演奏を披露する。 このアルバム自体がアイルランド音楽全体のベスト盤とも言える。

Get Out - Capercaillie

(Berl)
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カパーケリーはスコットランド出身のバンドで、最初はアコースティック楽器がメインのスコティッシュ・トラッド・バンドだった。 ドーナル・ラニーがプロデュースするようになり、アイルランド的な要素も包含してフォーク・ロック色も採り入れメジャーになった。 クラナドのようにシンセサイザーを多用する音作りと対照的に、楽器の刻むリズムも躍動的。 ヴォーカルのカレン・マシスンの歌もクラナドのモイラの「癒し系」とは異なるが、マウス・ミュージック的なテンポの速いものから、スコットランドのメロディ Fear a'Bhata の名唱まで実に素晴らしい。 最近、リイシューされたがライブ・トラックが追加されたヴァージョン・アップ(?)が図られている。(ジャケットも左のものから変更)

The Words That Remain - Solas

(Shanachie 78023)
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アイリッシュ系アメリカ人のシェーマス・イーガン(名前の Seamus はジェームズのケルト語名)のバンド Solas。 今、アメリカのケルト音楽シーンで最も活躍している音楽家でプロデュースもこなす人。 彼のバンド、Solas はその吹っ切れたようなノリの良さ、スピード感では並ぶものが無い。 マルチ楽器プレイヤーのシェーマスはフルート、ウィスル、ギターからボーラン(太鼓の一種)など各種打楽器までこなす。 フィドルも重要な役を担い、いくつかのトラックで聴かせるカラン・カーシーの歌が新鮮な彩りを添える。

Live in Palma - Dervish

(Kells KM-9516)
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私が一番好きなバンド。 4年前のダブリンで見た彼らのステージが今でも生き生きと脳裏に蘇る。 彼らの本領発揮のライブを2枚たっぷり聴ける本作をお薦め盤に。 プロデュースを務めるマンドリンのブライアン・マクドノーのマンドリンの刻むリズムがキラキラと独特の響きを作り出し、フルートとフィドルが絡み、一気に転調して流れが変わりヴォーカルのキャシー・ジョーダンの手になるボーンズ(牛か羊の骨、2本でカチャカチャ鳴らすという打楽器)が入ってスピードアップするダンスセットは、体を動かさずに聴いても素敵な脳のマッサージ。 日本の民謡歌手のような声質のキャシーが歌う曲がまた頭の凝りを解きほぐす。 ジャケットには曲の解説が全く無い(スタジオ録音のアルバムでは必ず曲のコメントを入れている)のだが、それもそのはず、演奏の前の曲の解説まで全て収録しているのだ。

Irish Heartbeat - Van Morrison & Chieftains

(Berl)
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60年代から活躍するチーフテンズの珠玉のアルバムから1枚だけ選ぶことは不可能だが、と言って1枚も選ばない訳にはいかない。 最近のアルバムは他流試合というか、幅広くゲスト・ミュージシャンを呼んで作っている。 ミック・ジャガーにライ・クーダー、スティングに矢野顕子まで。 ケルト系ではガリシアのガイタ(バグパイプ)奏者カルロス・ヌニェスとか。 その動きの走りとなったのが、ヴァン・モリソンとがっぷり組んだ本作。 民謡曲は半分くらいだが、タイトル通り魂を揺さぶる「濃い」歌ばかり。 メアリー・ブラックやモーラ・オコンネルがコーラスで参加して華を添える。 1曲目はレイフ・ヴォ^-ン=ウィリアムズが「富める人とラザロによる5つの異版」に使ったメロディ、5曲目の有名な「彼女は市場を行く」には凄みのある幽玄を感じ、まるで能の世界のよう。

Runaway Sunday - Altan

(Berl)
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小学校で音楽を教えていたふたりの若者がデュオを組んでデビューしてから15年あまり、片方のフランキー・ケネディは惜しくも亡くなってしまったが、マレード・ニ・ウィニーが新たに結成した新生アルタンの2番目、現在最新のアルバム。 以前のアルバムももちろん素晴らしい。 マレード自身が奏でるフィドルの活躍が他のグループに比べて大きいこと、たおやかで可憐な彼女の歌が結成以来アルタンというグループを特徴付けている。 妖精のようにすぐに消えてしまいそうな声。 ダービッシュのようなエネルギーは無いが、ほんのりとエアもダンスも楽しめるグループ。

MI

(Berl)