古楽とトラッドを合わせたようなスタイルで、イギリスのキャロルなどを演奏している。13世紀あたりの曲から、ルネッサンス、さらにもっと新しく記録されたものまで。ずっと聴きとおして、それほど面白いものではないかもしれない。演奏が真面目というか、雰囲気や遊びがあまり無い。敬虔なクリスマスなんだから特に遊ぶ必要は無いのだと割り切ればいいのだが、このような民衆的なお祭り要素を加味した構成だったら、もうちょっと楽しそうにやってもいいかも知れない。レイフ・ヴォーン・ウィリアムズが編纂した「8つのイギリスのキャロル」からの曲が聴き応えあり、特に第6トラックの最後の This is the truth sent from above のフォーキーな味わいがいい。
クリスマス・アンセムということで一応クリスマスがらみ。しかし、エリザベス朝の宗教的な歌が付いたコンソート・ミュージック集と言った方がふさわしいディスク。演奏しているローズ・コンソートもレッド・バード(声楽アンサンブル)も今はナクソス・レーベルなどで活躍している模様。特に、後者はヒリアード・アンサンブルのジョン・ポッターが率いている実力派。歌は結構、表情が濃い。ヴィオール合奏もボリューム感がある。七面鳥をたっぷり食べるクリスマス。
3番のコーエンのアルバムと同趣向で、12世紀から15世紀までに限定したクリスマスの曲で構成されている。イギリスの古楽合唱団プロ・カンティオーネ・アンティクヮによる演奏は、特に変な工夫、着色をせずに、これらの古の音楽を落ち着いて聴かせてくれる。所々のリコーダーの合奏も趣がある。当時から廉価盤扱いで出され、日本盤も発売されていたが、IMPレーベル自体が現在活動しているかどうかわからない。全く別の形で出されているかもしれないが、このプロ・カンの演奏は出色。指揮はマーク・ブラウン。
様々な時代と場所のクリスマス合唱曲をヒギンボトムに率いられたオクスフォードの聖歌隊が歌っている。まず、アパラチア地方のキャロルに始まり、後はパレストリーナあり、ブルックナーあり、プーランクあり。お国ものからも、ルネッサンス時代のクリストファー・タイから現代のハウェウルズまで。バスクやブザンソンあたりのキャロルなど、ヨーロッパ以外ではあまり馴染みの無い曲もとても美しい。アルバムは、クリスマスの各シーン毎に何曲かまとめながら時折フルート・ソロを案内役にまるで音楽劇のように上手に構成されているが、かえって先入観無しに音楽だけ聴いてみても充実したアルバム。グルーバーの浄しこの夜が、かえって浮いてしまうくらいである。
古楽の名指揮者、ジョン・エリオット・ガーディナーによるクリスマス・アルバム? 単にそれだけではない。ガーディナーの幼少時、村の人々によるクリスマス劇を楽しみにしていた。自分自身もその中で歌ったりした。そんな子供時代を振り返って、当時使っていた音楽を収めたのがこのアルバムだ。つまり、とても個人的なクリスマス・アルバムなのだが、それを世界最強のコーラスのひとつである彼の手兵モンテヴェルディ・クワイアに歌わせてしまったのだからすごい。ガーディナー自身が書いた4ページの解説も、思い出を交えて活き活きと語られる。「ノーフォークの美しい後期ゴシック教会でのレコーディングの間、これらの思い出と連想が溢れるように舞い戻ってきた」 というぐらいなのだ。
パリのノートルダム寺院のクリスマス・ライヴと言えば、昔からこの fy レーベルのディスクが有名だった。これは、女子パウロ会がコピーライトを一本買いして国内仕様で出したもの。1973年12月25日午前0時の鐘の後でカテドラルの奥から光彩のように響いてくる「聖しこの夜」など、まさに真打ち登場、クリスマス・アルバムの最右翼に位置すると言った感じのアルバム。当時、この大聖堂のオルガン奏者だったピエール・コシュローの即興も聴ける。グレゴリオ聖歌もオルガン伴奏付きで歌われるが、ひとつひとつの曲を聴くと言うより、あくまで「ノートルダム寺院のクリスマス」を仮想体験すべきアルバムなのでうるさいことは言いっこなし。ブジニャックやプレトリウス、ダカン、モンテヴェルディなど曲もきっちり渋好み。実際、ノートルダム寺院では毎年、12月24日の夜はミサの前のコンサートから始まって深夜ミサまで音楽をたっぷり聴かせてくれるのだが、後ろの方は観光客でごった返していてかなりの集中力が必要だったりする。そう言えば聖体拝領のパンをその場で食べないでお土産に持って帰ろうとした日本人もいた。神父さまがびっくりして「いま、ここで食べなさい」と言っていたけれど。
フランス語では同じタイトルのアルバム(こちらには定冠詞 la が無いが)で、歌っているのもノートルダム寺院の聖歌隊だが、96年のこのアルバムでは大オルガンを弾くのはフィリップ・ルヴェーブルという奏者。しかも、こちらはライブではないようだ。ビクトリア、スヴェーリンクからメンデルスゾーンまで、またイギリスやフランスのキャロルも今回は無伴奏のグレゴリオ聖歌に混じって歌われる。7曲目の Je me suis leve par un matinet (ある朝目覚めると)は、上記5のアルバム NADAL ENCARA 1曲目タイトル・チューンのフランス語によるもの。もとはケルシー地方(赤ワインで有名なカオールを中心とする一帯)の民謡だが、マルティナとロジーナのオック語によるフォーキーな味わいの歌と、こちらの少年合唱と聞き比べるのも面白い。
アンサンブル・エクレジアは、つのだたかしさん率いるタブラトゥーラの別ユニットとも言えるグループで、タブラトゥーラの方が古楽的無国籍脱時代的音楽?として「俗」の側面に展開することに対し、こちらは「聖」の音楽を担っている。まあ、女子パウロ会がタブラトゥーラに宗教的な音楽を演奏させているという感じか。波多野睦美さんを始め、メンバーも多く重なっているし、ジャケットデザインも望月通陽さんの染絵やオブジェを使っていてこちらもとても雰囲気が良い。これは91年の録音、ディレクターの佐々木節夫さんは少し前にお亡くなりになった。ハンマーダルシマーで奏でられるGod rest you merry など、フォーキーな味わいがあり、静かにひとつひとつの曲が演奏される。ジングルベルと電飾に彩られた歳末大売出しな街の情景とは最も離れたところに鳴っている音楽がある。
タイトルの通り、フランスの古いクリスマスの音楽を収めている。フィリプ・ル・シャンスリエやトロヴァドールのアダン・ド・ラ・アルあたりから、セルミジやアテニャンと言ったルネッサンスの頃までカヴァー。各地の民衆的な曲も含まれている。アンサンブル・エクレジアの演奏は、イギリス篇と同じように、しんみりとアンティームな雰囲気がある。ただ、七面鳥やフォワグラを食べている人々の歌ではないな、と感じさせるところがある。淡白というか、わびさびというか。波多野さんのまっすぐに透き通った歌も本当にすばらしい。もちろん、こんなノエルがあっても一向に構わない。佐々木節夫さんの手になる録音も、演奏のコンセプトに沿っているし、CDは通常のプラスティック・ケースではなく小さな紙の箱に入っているのだ。わずか2ページのつのださんの解説も、まるで小さなステージで話を聞くような簡素でわかりやすいものだし、いつもの望月さんの絵もたっぷり入っている。隅から隅まで丁寧に作られたアルバム。
アンサンブル・エクレジアのもうひとつのアルバムはイタリア篇。13世紀の写本の歌から、モンテヴェルディまで、イタリアのクリスマス曲を集めたもの。ポジティブ・オルガンや濱田芳道さんのコルネットまで活躍。イタリアの中世から初期バロックまでの音楽に絞っているクリスマス・アルバムというのも独特だが、ひとつひとつの曲をそのまま楽しむことが出来る。不思議な曲はメルラの手になる聖母マリアの子守唄で、クラシックの曲と言うよりサルデーニャあたりの民謡のような調べ。彼らには、もうひとつドイツ篇のクリスマス・アルバムもあるのだが、残念ならが未聴。