聖母マリア頌歌集

カンティガス聴き比べ

13世紀のスペイン、レコンキスタのただ中に王位にあった賢王(エル・サビオ)と呼ばれるアルフォンソ10世が編纂した400曲あまりからなる、中世のマリア信仰による民衆宗教歌の数々。 当時、抒情詩に適するとされた中世ガリシア語で書かれている。 ガリシア語は殆どポルトガル語に近く、巡礼の本拠地であるサンチャゴ・デ・コンポステーラやビゴ、ラ・コルーニャなどでは今も話されている。 レコンキスタでセビージャをイスラム教徒から奪還したのが彼の父親が王位にあったときということからも分かるように、当時スペインの南はアラブ文化圏だった。 そこで、アラブとカトリックの文化融合が起こっていたはずであるということから、アラブ色を含めた演奏が増えている。 このような昔の曲は解釈がいくらでも出来るので、CDによる演奏もヴァラエティに富んでいる。

聖母マリア頌歌集 - ダンスリー

(MISAWA Classics CSD-10)
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日本の古楽合奏団ダンスリーがミサワホームが出していたミサワ・クラシックスというマイナー・レーベルに吹き込んだ1枚。 恐らく廃盤になっていると思われるが、何らかの形で再発する価値のある録音。 濱田滋郎さんによる詳しく解りやすい解説と、ミニアチュール図版を沢山使った対訳、全てにわたって丁寧な作りのアルバム。 二人の女性の歌もしっとりと中世の奇跡物語を語り歌うのにふさわしい。 楽器には、ウド、サズ、カヌーンと言ったアラブ音楽のものも入っているが、アラブ色は表には出されていない。 アンサンブル・ユニコーンの演奏を懐石料理にしたみたいな感じ。

SANTA MARIA - Ensemble Ecclesia

(Tecla FPD012)
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日本人による、もう一つのカンティガは、つのだたかしさん率いるアンサンブル・エクレシアのもの。 Teclaというのは女子パウロ会という日本の修道会のレーベルである。 つのださんの他のアルバム同様、望月通陽さんのほっとするような絵皿の写真を配した装幀が非常に美しい。 前半7曲がアルフォンソ10世のカンティガで、後半10曲は「モンセラートの朱い本 LLIBRE VERMELL」からで、どちらも聖母マリアを讃える歌だが、「朱い本」の方はラテン語、一部カタロニア語(16曲目など)によっている。 カンティガの方は歌は3曲、残り4曲は舞曲風のアレンジが施されている。 タブラトゥーラというつのださんの別グループの中世舞曲のようなノリで楽しく軽快。 歌の方は深みのあるウドやサズの伴奏が印象的で曲にふさわしいが、声は普通のクラシック音楽という感じ。